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東京高等裁判所 昭和42年(行ス)7号 決定 1967年9月01日

抗告人(被申立人) 国

訴訟代理人 小林定人 外一名

相手方(申立人) 下光輝一

主文

本件抗告を棄却する。

理由

抗告代理人は原決定を取消す、相手方の申立を却下するとの決定を求めその主張する抗告の理由は別紙書面のとおりである。よつて判断するに相手方は原告として新宿区選挙管理委員会を被告とし、右委員会は相手方の昭和四十二年一月十一日付選挙人名簿の登録申請の登録を拒否していることをやめなければならない旨の裁判を求める訴訟を東京地方裁判所に提起し、同裁判所昭和四十二年(行ウ)第七号事件として係属中に相手方は被告を国と変更し、請求の趣旨を国は相手方に対し金五十万円と右金員に対する昭和四十二年一月三十日から完済まで年五分の金員の支払を求める訴に変更する旨の申立をなしたところ同裁判所はこれを許可する旨の決定をなしたことは本件記録上明らかである。そして原決定は許可の理由を明らかにしていないが行政事件訴訟法第二十一条に基いて右規定の要件を具備するものとして許可の決定をなしたものと解すべきであるところ選挙人名簿は抗告人の主張するとおり右名簿を利用することを定められている選挙は各種の選挙があり、それは国の行う選挙ばかりではない。従つて右名簿の調製の事務はその実質からすれば必ずしも国に帰属する事項のみを処理する事務とは云い切れない。しかしながら事務処理の形式上の所管から云えば市町村選挙管理委員会(東京都の都選挙管理委員会を含む)が昭和二十八年全国選挙管理委員会が廃止されてからは直接自治庁(現在は自治省)の指揮下に入ることとなつたので少くともそれ以後は市町村選挙管理委員会の行う選挙人名簿調製の事務は地方自治法、選挙法規の精神から見て行政事件訴訟法第二十一条の関係では国に帰属事務と解するのが相当である。そして本件訴の変更については本件記録を通読すると請求の基礎に変更がないものとする解することができるから原決定が相手方の訴の変更の申立を許したことは相当であり、本件抗告は理由がない。

よつて主文のとおり決定する。

(裁判官 毛利野富治郎 石田哲一 矢ケ崎武勝)

別紙

抗告の理由

原決定は、その理由を明らかにされていないけれども、相手方の提起した選挙人名簿登録請求事件の対象となつている選挙人名簿の調製に係る事務が国に帰属する事務であると認定されたものと考えられる。しかしながら、右選挙人名簿調製に係る事務は、国に帰属する事務ではない。即ち、公職選挙法による選挙人名簿は、同法が適用される選挙に用いられるのみならず地方自治法による直接請求の住民投票、最高裁判所裁判官国民審査の投票および検察審査員候補者の抽せんにも用いられるのであるが、公職選挙法が適用される選挙についてみても衆議院議員および参議院議員の選挙のほか、都道府県知事および都道府県議会議員ならびに市町村長および市町村議会議員の選挙に使用されるものである。

したがつて、市町村選挙管理委員会が公織選挙法の定めるところにより選挙人名簿を調製する事務を行つていることは、国の事務をその機関委任により執行しているものとはいいえない。

よつて、選挙人名簿登録請求の訴えを国家賠償請求に変更した場合には、国を被告とすることは、許されないにもかかわらず、前記訴えを国を被告とする慰藉料請求の訴えに変更することを許可した原決定は、法の解釈を誤まつた違法な決定であるから、速かに取り消さるべきものと思料する。

原審決定の主文

主文

昭和四二年(行ウ)第七号選挙人名簿登録請求事件の訴えを、国を被告とする慰藉料請求の訴えに変更することを許可する。(昭和四二年五月二九日東京地方裁判所決定)

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